ある駅前の駐車場に、ラベンダーの植え込みがある。
これがまあ、立派だった。
車の横にちょっと植えてある、みたいな感じではなくて、白樺っぽい木の足元にラベンダーがどわーっと広がっている。紫の穂が風で揺れていて、駐車場なのに妙に気持ちいい。
なんやて。駐車場でこれができるなら、うちの庭でも少しはできるのでは。
そう思ってしまったのが始まりである。

ラベンダーなら、なんでも同じではなかった
あとで調べると、ラベンダーは全部ひとまとめにしてはいけないらしい。文章で並べるとわけが分からなくなるので、高原との相性を表にするとこうなる。
| 系統・品種 | 寒冷地との相性 | 見た目・育ち方 | 今回の庭では |
|---|---|---|---|
| イングリッシュ Lavandula angustifolia |
細長い花穂で、株は比較的まとまりやすい。 | 高原向きの有力候補。ただし、今回植えた主役ではない。 | |
| ラバンディン Lavandula × intermedia |
イングリッシュ系とスパイクラベンダーの交雑種。大株になりやすく、花茎も長め。 | グロッソが属する系統。香りとボリュームを狙いたい。 | |
| グロッソ Lavandula × intermedia ‘Grosso’ 今回の主役 |
英国の目安で−15~−10℃。 |
強い香り。高さ・幅とも0.5~1mほど。成熟の目安は2~5年。 | 主にこれを植えた。大株は期待できそうだが、冬の湿気と秋の剪定には注意。 |
| フレンチ/ストエカス Lavandula stoechas |
どちらかといえば暖地向き。 |
花穂の先にウサギの耳のような苞。暑さには少し対応しやすい。 | 屋外越冬は慎重に。呼び名だけでなく、札の学名まで見たほうがよさそう。 |
出典:英国王立園芸協会の栽培案内、グロッソの品種情報、兵庫県立淡路景観園芸学校の解説。耐寒温度は英国基準の目安で、庭での生育を保証する数字ではありません。
表にすると、うちのグロッソは「寒さは比較的いける。でも水はけが悪ければ普通に終わる」という立ち位置だった。ラベンダーがかなり嫌うのが、根が湿ったままになること。日当たりと水はけが重要で、特に冬の湿った土は株を傷めやすい。イリノイ大学の園芸資料では、寒さそのものより湿り気で枯れることが多いとまで説明している。寒冷地では最低気温だけでなく、雪解け水や雨が根元に溜まらない場所かどうかも見ないといけないらしい。
記事に出てきた苗
ラベンダー・グロッソの苗
うちで主に植えたのはグロッソ。同じ名前の苗を探す入口だけ置いておきます。寒さだけでなく、水はけと植える場所は要確認。
※在庫・価格・苗の大きさや仕様は、各販売ページで確認してください。
それから、こんもりした姿を保つには花後の軽い剪定も必要。ただし、古く木質化した部分まで勢いよく切ると、そこからは芽が出にくい。駅前の植え込みを見て「紫! うちもこれ!」となっていたが、実際には品種選び、水はけ、毎年の手入れまでセットだった。わいは完成画面だけを見ていた。
腰痛と相談しながら植える
ここ数週間、腰がよろしくない。
よろしくないというか、普通に痛い。しゃがむ、立つ、土を掘る、苗を運ぶ。全部が「お前ほんまに今やるんか?」と腰に確認される感じがある。
でも、庭は待ってくれない。
いや、正確には庭は待ってくれる。待ってくれるけど、待たせると雑草が先に仕上がってくる。こちらの都合など知らん顔で、あいつらはどんどん完成度を上げてくる。
というわけで、腰痛と相談しながら、少しずつ植え込みを作った。

鹿に食われにくそうな植物を選ぶ
今回のテーマは、鹿に食われにくそうな植物。
このあたりでは、かわいい顔をした庭の破壊者が普通に来る。バラだろうがアジサイだろうが、気に入ったらいく。こちらが「これは大事に育ててるんですけど」と言っても、まあ通じない。
調べてみると、鹿は香りの強い葉、苦味のある葉、毛っぽい葉などを嫌うことが多いらしい。もちろん「絶対に食べない」ではない。腹が減っていたら、鹿もルールを破る。人間も夜中にカップ麺を食べる。そういうことです。
日本の園芸店で「メドーセージ」の名で流通することが多いサルビア・ガラニチカ。青紫の筒状花と黒っぽい萼がすっと立つ。シソ科らしい葉の香りがあり、鹿に敬遠されやすい候補。
写真:Qwert1234(CC BY-SA 4.0)
別名ベルガモット、ビーバーム。これもシソ科。花びらが放射状に広がり、ほんまに小さく爆発したみたいに咲く。蜂や蝶にも人気らしい。香りの強い葉を持つので候補入り。
写真:Burkhard Mücke(CC BY-SA 4.0/表示用にトリミング・縮小)
ネペタとも呼ばれるやつ。薄紫の小花が株全体を覆うように咲き、ふわっと広がる。ミントっぽい香りがあり、鹿やウサギに避けられやすい候補としてよく紹介される。
写真:Krzysztof Ziarnek, Kenraiz(CC BY-SA 4.0)
ヤロウともいう。写真を見ると、葉の細かな切れ込みが「ノコギリソウ」の名前どおりで分かりやすい。乾燥にわりと強く、香りもあり、鹿に食べられにくい候補。
写真:O. Pichard(CC BY-SA 3.0)写真はそれぞれの代表例。園芸品種によって花色や草丈は変わります。また「鹿が食べにくい」は絶対ではなく、空腹時には普通に食べられることもあります。
植えた直後の庭は、正直まだスカスカである。
駅前のラベンダーみたいな完成形を見てから自宅の植え込みを見ると、「あれ、わいは何を作っているんだっけ」となる。
でもまあ、最初からああはならない。うちの主役であるグロッソも、十分な大きさになるまでの目安は2~5年。あちらも何年か育って、刈り込まれて、株が太って、ようやくあの迫力になったのだろう。こちらは植えたての新人チーム。まだ全員、配属初日みたいな顔をしている。
問題は、この新人たちが鹿に歓迎会をされないかどうかである。
そしてブユに負ける
そしてもう一つの問題。
ブユである。
虫よけを怠った結果、ブユにやられました。
ブユ、またはブヨ、地域によってはブトとも呼ぶらしい。名前はかわいい寄りなのに、やることが全然かわいくない。
蚊みたいに「ぷすっ」と吸うのではなく、皮膚をかみ切って吸血するタイプ。字面からしてもう嫌すぎる。しかも刺された直後はあまり分からないことがあって、あとから腫れとかゆみが来る。
こいつの嫌なところは、かゆみの持続力である。数日どころか、へたすると数週間レベルで「まだおるんかい」となる。掻き壊すとさらに長引くし、皮膚が硬くなって、数か月単位で跡やかゆみと付き合うこともあるらしい。
数週間から数か月かゆい虫。
もう虫というより、呪いのサブスクである。解約ボタンどこ。


しかも庭仕事中は、腰が痛いから動きが鈍い。
そこへブユ。
腰痛で機動力を落とされたところに、足元を狙ってくる。悪魔の虫です。正式名称とか生態とかはあるんだろうけど、こちらの体感としては悪魔でよい。
虫よけ、長袖、長ズボン、足首ガード。
こういう基本を怠ると、庭仕事はすぐ罰を与えてくる。自然、きれいな顔をしているけど、まあまあ厳しい。
庭先のクサフジっぽい花
庭の端では、クサフジらしき花も咲いていた。

青紫の小さな花が房になっていて、近くで見るとかなりきれい。藤という名前がつくだけあって、ミニチュアの藤みたいな雰囲気がある。
神奈川の街中では、あまり見た記憶がない。
調べると、クサフジの仲間は山野の日当たりのよい草地や林縁に生えるらしい。全国的には広く分布するけど、街中だと舗装、草刈り、開発で、そもそもこういう草が育つ場所が少ないのかもしれない。
写真だけだと、クサフジそのものか、近い仲間かは断言しにくい。ノハラクサフジとかナヨクサフジとか、似た名前のやつらが出てきて、植物同定の沼が急に深くなる。
でも庭先で見た瞬間の感想は、単純に「きれい」だった。雑草扱いされる場所もあるのだろうけど、これは抜く手が止まる。
カゲロウっぽい虫もいた
あと、カゲロウっぽい虫もいた。

これも美しかった。
薄い羽に細かい脈が入っていて、体は淡い黄色。長い尾を引いていて、なんというか、作りが繊細すぎる。庭仕事で泥だらけになっている人間の横に、急にこういう完成度の高い造形物が現れる。
写真を見る限り、カゲロウ目の仲間でよさそう。ただ、種類までは自信なし。カゲロウは成虫になる前に「亜成虫」という、羽があるのにもう一回脱皮する謎ステージがあるらしい。なんでそんな仕様にした。
しかも成虫は口が退化していて、ほとんど食べず、短い時間で繁殖して終わるものが多いという。
こちらはブユのかゆみが数週間続くのに、カゲロウは一瞬みたいな命をやっている。自然界、時間配分が雑すぎる。
まず人体を守れ
そんな感じで、腰痛、鹿対策、ブユ、クサフジ、カゲロウ。
庭を少しいじっただけなのに、情報量が多い。
駅前のラベンダーみたいな景色には、まだ全然届いていない。今の庭は、植え込みというより「土を掘って苗を置きました」という段階である。
でも、メドーセージやモナルダやキャットミントが根づいて、ノコギリソウが広がって、鹿にそこそこ無視されて、来年あたりに少しでも紫の面積が増えたらうれしい。
その前にまず、ブユ対策。
庭を作る前に、人体を守れ。
ほんまそれ。
参考にした情報
ブユの症状については田辺三菱製薬の皮膚情報、植物と鹿対策はProven WinnersやMaryland DNR、クサフジ周りは京都府レッドデータブック、カゲロウの亜成虫については天竜川総合学習館かわらんべあたりです。


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